1998年にシリコンバレーにてオープンソースという概念と言葉が誕生して以来、我々はそのソフトウェアライセンスの形態を示す言葉の下に数多くのイノベーションが生まれ、大きな社会変革が起きたことを目の当たりにしてきました。米国、EU諸国、中国を中心とした世界各地において、オープンソースによるイノベーションとそれによる社会の発展の例は枚挙にいとまがないほどであり、世界のデジタル社会化における重要なインフラとなったと考えております。
今後の我が国の持続的な発展のためには行政機関のみならず社会全体のデジタル化が欠かせないものと我々は考えておりますが、そのデジタル化において重要な要素となるオープンソースを中核として、創設以来の20年間オープンソースの世界を見守ってきた者として以下の5項目を提言します。
1. 行政システムのオープンソース化の推進
地方自治体を含むあらゆる行政システムをオープンソース化し、さらにオープンデータ化も合わせて推進してシステム間の相互運用性を確保することで、コスト削減のみならず、国内ソフトウェア産業の成長への大きな刺激と急速な行政全体のデジタル化を両立できると考えます。また、そもそも国民からの税負担で成り立つ行政システムが一部の企業にロックインされるというのは国民にとって極めて不合理であり、オープンソースおよびオープンデータ化を促すことで国民全体が利用できる公共財とすることが望ましいと考えます。
2. データ形式とアーカイブの統一化
行政のあらゆる機構がデジタル化されたとしても、データの形式、取得方法、保管場所等に制約があればシステムの相互運用性が疎外されることになります。よって個々のシステムが蓄積するデータの形式は、可能な限りの過去までを含めて、ある特定のルールの下で規格が統一化されなければなりません。また、データの保管、頒布についても一定のルールで実施され、再利用、再頒布に制限がなく、さらに国内一律で機械的に利用されやすくする配慮がされることを望みます。
3. プライバシー保護の強化
地方自治体を含む行政システムは個人に関するデータを数多く扱うものであり、民間のデジタル化についても今後益々多くの個人データが扱われていくものと考えますが、膨大なデータが飛び交う世界においては個人のプライバシーの保護が何よりも重要なことであり、円滑な社会のデジタル化の進行のためにも、国民に安心を与える適切な対応を取らなければなりません。プライバシー保護の強化のための適切な法整備と民間への注意喚起を迅速かつ持続的に実施可能な枠組みが整備されることを望みます。
4. 民間技術者の積極的登用
今後も次々と産み出されると推測される新技術、概念にも迅速かつ持続的に対応できる体制を構築するために、先進的な民間企業の技術者およびオープンソース開発者の雇用を現実的な待遇にて行えるよう、人事制度の改善に努力されることを望みます。
5. 民間企業におけるセキュリティ責任者職と技術責任者職の設置推進
行政および社会全体のデジタル化が進んだ世界においては、ITC企業以外の企業や民間組織においてもセキュリティ・インシデントへの対応や自社システムの選定と構築を自組織にて自発的に対応する能力が求められるようになると考えます。また、デジタル化を足掛かりとした産業の発展のためには、一部の企業にロックインされない体制は不可欠であるとも考えます。そのため、高度な能力を持つセキュリティ責任者と技術責任者をITC企業以外の企業や民間組織においても確保できるよう、人材の育成、環境整備とその支援に務められることを望みます。
一般社団法人オープンソース・グループ・ジャパン
理事長 佐渡 秀治